- 社長インタビュー
「青森によい影響を発揮し続けたい」地元愛、未知への挑戦
株式会社WANDの創業社長である岡山さん。ECサイトビジネスで起業に至った背景、根底に流れ続けている想いをお聞きしました。 株式会社WANDの真ん中にあるのは「青森によい影響を発揮し続けたい」という地域へ貢献したいという思いであり、「このままでは青森が、一次産業が廃れていってしまう」という危機感です。 なぜ、EC事業なのか、なぜD2C(Direct to Consumer)なのか。「想い」から起業し、事業成長を続ける株式会社WAND、そして岡山さんのストーリーをぜひご一読ください。
え?長芋やにんにくって300円もするの?
現在、青森県では一次産業が主要産業の一つですが、後継者不足など事業承継問題が様々なところで叫ばれています。
なぜ農業、漁業で事業承継が進まないのか?その一因になっているのは所得にあると私は考えています。青森県の成年男性の生涯賃金は全国最下位レベル。仮に実家が一次産業に携わっている家庭があったとしても、親から「継がなくていい」とか、関東に出たとしても「帰ってこなくていい」と言われるケースも多く、私も実際、親からそんな風に言われて育った人間の一人です。
大学進学を機に上京し、東京での暮らしを始めた頃、スーパーに行くと青森県産のにんにくや長芋が少量300円で売られているのを見ました。
青森にいた頃、近所に住む農家をやっているおじいちゃん、おばあちゃんから「貰って当然」だったものが、「こんなにも高値がついているとは!」と驚いたことを覚えています。
青森のために、自分にできることは何か
でも、高値で販売されている野菜を作る農家さんたちが、裕福な暮らしをしているかと言われると、それは違いました。
「何故そうなんだろう?」そして、「なんで売ればこんなに高いものを、タダ同然で我が家にくれていたんだろう?」そこでそんな疑問が生まれました。
そこで調べ始めると、農業にまつわる社会の仕組みが分かるようになってきました。農産物には規格が存在していて、その規格に合わない野菜は出荷出来ず廃棄されている現実があること。
豊作貧乏という言葉の通り、豊作だと野菜自体の価格が下がり収入が減ってしまうこと。不作でも豊作でも安定しない収益と、消費者の顔や感謝が直接届くことが少ないというモチベーション面での課題や現状など。
これでは自分が生まれ育った青森が、いつかなくなってしまうんじゃないか?
そのために自分は何をすべきなんだっけ?
そんな思いが沸々と湧き上がるようになりました。
そんな現状をD2Cで変えていこう
自分は何をすべきか?
そんなことを頭の中に置きながら、大学生活を過ごし就職活動時期を迎えました。いつかは青森に戻って仕事がしたいと思っていたので、青森の会社の求人情報も当然のように見ていました。
ただ、首都圏の募集に比べると収入面であまりにも格差があり、戸惑ったことを覚えています。
親からも「わざわざ大学に入って勉強してきたんだから、帰ってこなくていい」と言われました。
その時も同じように、そう言われるのは悲しいな、これを変えなければと改めて思ったことを覚えています。
結局、私は東京の企業に入社し、サーバーの提案営業をする仕事を始めました。その仕事の中で、営業先としてあるECサイトを運営する経営者の方と知り合いました。その方からECとは何か、どのような仕組みになっているのか?を仕事の話の中で教わりました。
その方から話を聞くうちに「この仕組みであれば、生産者から消費者へ直接販売ができる!消費者の顔が見え、感謝や仕事のフィードバックが直接届く仕組みができる」と気づきました。
その方へのサーバーの提案には失敗し、導入いただくには至らなかったのですが、「実は私青森出身で、こんなことやってみたいと思っていて…」と話してみると「それはやったほうがいい!」と背中を押され、やってみようと決心するに至りました。
作りたかったのは「県外の外貨を稼ぐ仕組み」
そこから自分自身のビジネスモデル設計をはじめ、様々な構想を考えていきました。
その時に思っていたのは「青森県の既存の市場で回っている利益の邪魔はしたくないな」ということ。なので、青森県外で外貨を稼ぎ、地元に還元する仕組みを作ることを目指しました。
また、私が就職活動の時に感じた「低賃金の会社では働きたくないな」という思い。自分が会社を作るなら、首都圏の企業と並んでも収入・待遇面で肩を並べられる会社にしたいということでした。
それを実現するために目を付けたのは消費者直接取引と、「規格外」。規格外の農産物を市場よりも高値で買い取り、加工品を作り、販売するというやり方です。農家さんも喜び、そして消費者により青森県産の商品が行きわたる仕組みが「D2C(Direct to Consumer:生産者が消費者へ直接販売する仕組み)」だということです。
ビジネスモデルが決まり、次に取り掛かったのは仕入れです。農家さんとのつながりも最初は全くなかったので、農家を継いでいる地元の友人に頼み、農協の青年部に入れてもらいながら農家さんと交流を始めました。仕事もなかったので、最初の2~3年は頼まれると収穫を手伝うなどしてつながりを作っていき、少しずつ仕入れ先の農家さんを増やしていくことが出来ました。
農業の「アタリマエ」を変えていきたい
農業は儲からない、そんなイメージを変え、魅力的な職業だと証明したい。まずは自社の中で実証するために、弊社としても農業を始めました。農繁期には休みが取れない、肉体も疲れる、時間も不規則。そんな農業における「不」を、しっかりと給料を貰えて休みもある、繁忙期であっても休みも取りながら働ける、という状態にすることで変えていきたい。
また、肉体労働が中心の農業だけではなく、商品開発、企画、マーケティング、カスタマーサービス、製造から販売まで多様な仕事を自社で創り出すことで、同じく多様な人に合った働き方を実現していく。そんな会社が青森にあることで、他の分野でも「素材でうる」のではなく「商品化して消費者に直接届ける」ビジネスモデルが増えてくれたら、農業以外の分野にも貢献できるかもしれません。
農業はまだまだ素人なのですが、こんな考えに賛同してくれる社員と共に実現していけたらいいなと考えています。
「信頼」がマネジメントのキーワード
私が会社でのチーム作りにおいて大事にしているのは、「信頼する」「任せる」ということです。
人は万能ではなく、私も営業出身であることから営業や数字に関しては成果を出すために策を練り実行することはできますが、農業に関しては素人。
得意なことは得意な人がやればよい、得意な人に任せるという形でやっています。
その根底にあるのは「信頼」です。
会社を創業してからこれまでは「スタートアップ期」。会社として事業の形を作り、商品開発をし、仕組みを作りながら事業を前に進めることを最優先で行ってきました。
今後2年間に関しては、会社のバックヤードを整備していく時期だと捉えています。会社の中を整えて、社員研修を実施したり、福利厚生の見直しをしたりするなど、社員のみなさんの働きやすさを求めた環境整備にも力を入れていきたいと考えています。
会社としてこれから更に伸びていくためには、人の力が必要です。チャレンジしていくためにはリソースが必要、だから今、採用に力を入れています。
ぜひ、私たちと志を共に
WAND×飲食店、WAND×肉屋さん…かけ合わせで可能性は無限大
今後やりたいことと聞かれるとたくさんあるんですよね。農業部門に関しては有機JASや、グローバルGAPを取得して海外にも挑戦していきたい。黒ニンニク以外でまだ誰も目をつけていないような農産品に目を付けた加工商品を作りたい…など。
一次産業に関わっている人たちの中には色々なアイディアを持っているけれど、何からやったらいいか分からないという人も多いんですよね。そういう人たちと一緒に、形にしていくお手伝いをしていきたいといった思いもあります。
私たちはECサイトがあり、ネットで商品を売っていける力があるので、WAND×飲食店、×お肉屋さん、など、他業態の方々と協業することで生まれることも沢山ありますし、これまでもチャレンジしてきました。
一次産業に関わる人が金銭的にも、精神的にも余裕をもち、自分たちの仕事や暮らしを誇らしいと思えるような世界、一次産業や青森での暮らしが魅力的なものに他の人の目に映るような世界を目指していきたいですね。
この地域をどうしていきたいか
自分の地元愛、と言いますか、地元に対する思い入れを紐解くと、中学生くらいに遡ります。中学生のころ、すでに地元十和田の商店街はシャッター街でしたが「この商店街をなんとかしたい」そんな思いを当時既に持っていたことを覚えています。
1度進学・就職で青森を離れ、関東で生活したことがある私だからこそ、故郷があり、ここに帰ってくる楽しみを知っています。この場所の魅力が失われていくことや廃れていくことを傍観することはできません。
「WANDで働きたいから帰ってきた」とか、「WANDがあったから戻ってくる勇気をもてた」と言ってもらえる会社にしていきたいです。何より、私たちだけが成功して、事業を伸ばしていけばそれで良いとは全く思っていません。私たちが事業を継続し続け、大きくしていくことを通じて地域に対するインパクトを強め、もっと地域に貢献していきたいです。十和田の魅力に人が感化され、人が「出ていく地域」でなく、人が「入ってくる地域」にしていきたいです。それは一筋縄でいかない問題だとは思いますが、WANDが一つのきっかけになれたら嬉しいですね。