• 社長インタビュー

近江商人マインドで90年の歴史を次の世代に

青荷温泉株式会社(ランプの宿)

原田 篤久(Harada Atsuhisa)

青荷温泉株式会社の社長となって7年目の原田さん。歴史ある旅館をどのように守っていくのか、その思いと「ランプの宿」の魅力について、とても気さくに笑顔で語ってくださいました。

旅行会社の添乗員から社長へ転身

生涯、添乗員をやりたいと思っていた自分がこんな山奥で温泉宿の社長になるとは!まさに青天の霹靂でした。添乗員を28年、営業しかやってこなかった自分がいきなり本社の総務部長になった時はさすがに戸惑う気持ちがありました。そしたら会長に「あなたの部下は優秀だから大丈夫だ!ハッハッハ」と言われたもんだから(笑)。それから2年経ったある日、「明日から青荷温泉にいきなさい」って、突然会長に言われて。考える暇もなく3日後には社長として青荷温泉に出勤していました(笑)。

添乗員をしていたので宿のことは分かっているつもりだったけれど、外から見た旅館とは全く違うことに気付き、それは社長になったと実感した瞬間でもあります。同時に母親が黒石市出身だったこともあり、子供の頃に毎年訪れていたから懐かしいなあ、縁だなあと感じたものです。

何もない贅沢

ここの魅力は「何もない贅沢」。場所は南八甲田の最高峰、櫛ヶ峰(くしがみね)の青荷渓谷に沿ったところにあって、電気もない、携帯の電波もWiFiも通じない、もちろんTVもない。日常生活している環境とは全く違う。ほんとここは何十年前の日本だろうかって感じです(笑)。この非日常の環境がここにしかない魅力でもあります。

夫婦で宿泊したお客さまからは「普段会話がないんだけど、20年ぶりに思い出話をしたよ~」と言われたこともあります。普段仕事に追われている方は非日常の環境でのんびりできる場所、1人で来た方には自分を見つめ直す場所になったという声もいただきます。ここに来てそんな不便を満喫して楽しんでもらえたら、それが一番嬉しいし、ありがたいことです。

経験のない人もチャレンジできる環境がある

人手不足は課題でもあり、様々な取り組みにチャレンジしているところでもあります。しかし人数が少ないからこその魅力も沢山あります。ここには「仲居」がいないのです。社員は様々な役割をこなすので、色んな仕事ができ、その分経験値も上がって成長する速度はどこよりも速いです。全く経験がない人でもすぐ仕事に慣れるし、安心して働ける。それはアットホームな雰囲気の中で育つ環境があるからだと思います。全体の状況を個々に把握して臨機応変に行動できることは、ここで働く上で最も必要とされている事であり、それができる社員が育っていることはとても嬉しいですね。

「自由な働き方」うまく循環していくように

小さい子供さんがいるスタッフは、全体でサポートしていて、仕事より子供の行事を大事にしてもらうのは当たり前の考え。どんなに忙しくてもそこは守っています。

残された人はほんと大変なんですけどね~。そんな時は皆で、「さっ、がんばろ!」の一言(笑)。今後、小さい子供さんが成長して、若い社員が子供を育てる時が来て、全体で子育てに協力できるように上手く循環していく、そんな事ができればいいですね。シフトはそれぞれの都合に合わせて皆で調整していて、仕事が早く終わったら終業時間前でも早く帰ってもらう工夫をしています。状況にあわせて、ある程度自由に働けることも人数が少ないからこそできている職場です。

非日常の世界で働くということ

ここは四季を敏感に感じられる贅沢な場所。春は5月14日に桜が満開になります。毎年ほぼこの前後。桜が散ると新緑が輝きます。山の夏は風がとても気持ちがいいですし、気温は平地と8度くらい違うんですよ。秋は紅葉の景色へ、冬は真っ白な世界で、ものっすごく静か!雪で音が吸収されるのでしょうね、空気がピーンって張っている感じです。夜の星空は天の川がくっきり見えて、流れ星が次から次へと降ってくる。お願い事する暇なんてないくらいにね(笑)。川のせせらぎと鳥のさえずりだけが聞こえてくる空間。不便は多いけれど、ここで働けることは贅沢なことです。こんな環境が好きな人に働いてもらいたいと思います。

90年の歴史を次の世代につなげるために

定年まであと11年でどこまでできるかわからないのですが、私の役目としては、まず今の建物の雰囲気を壊さないことですね。青荷温泉の歴史は、1959(昭和34)年、第1回県文化功労賞受賞の栄誉に輝いた、青森県の歌人「丹羽洋岳(にわようがく)」が1929年(昭和4年)に開湯したのが始まりです。90年ほどの歴史があり、人里離れた一軒宿が風雅を感じさせてくれます。ここを守り、次の世代につなげていくことが私の役割。現状維持のための建物の修繕、遊歩道や蛍が見られる蛍池も安全に行けるように整備したいですし、長期滞在するお客さまも多いので、少しでも自然を楽しんでもらいたいという気持ちがあります。

社長になった時に、ここを良く知る年配の人に言われたことが、「がたきてる時にこごさ来て大変だな。おめ、こごビンとして終わればいっきゃ」(建付けけが悪くなっている時にきて大変だな。あなたがここを立派にして終わればいいじゃない(笑))。期待されているとともに、声援をもらった気がしました。ですから、施設を次の世代まで使えるように修繕、整えていくことにこだわってるところがあるんでしょうね。

近江商人のマインドで理想の場所をつくりたい

「やれば終わる、決してあきらめない」物事全てそうで、ここで投げてしまえばそれまでしてきた事の全ては終わり。あきらめずに続けると必ず最後がある!という考え方を大切にしています。

社員に対しては、伝えたいこと、感謝の気持ちなどは、言葉にして伝えるようにしていますし、社員からの意見や提案も、なるべく取り入れていきたいと思っています。浮世離れした秘湯の一軒宿は、一歩足を踏み入れた瞬間に「アメージング!」と外国人の方に感動してもらえるほどです。近江商人の三方よしみたいな発想で恥ずかしいけども(笑)、お客様が良くて、従業員が良くて、会社が良ければ、すごくいいじゃないですか!それが理想、そんな場所を作っていきたいです。

サービス・レジャー業, 設備・メンテナンス業青荷温泉株式会社(ランプの宿)

「ランプの宿」として全国的に知られており、電波は届かず電気もない、サービスは「心からのおもてなし」のみという、日本唯一の旅館です。 不便ではありますが、不便以外の楽しみ方をお客様へお届けし、自分らしく働く。ここでしかできない経験を積むことができます。 人材育成、働きやすさ、資格取得制度の構築を進めており、建物は「古い」旅館ですが、経営は「新しい」旅館として小さな工夫を日々取り入れています。